朝日新聞のWEB版をみていたら
『下山事件で浮上、「ライカビル」解体 姿消す戦後史舞台』
という記事があった。夕刊に載っている記事のようだ。
「おっ!」とおもったひとのなかには
『下山事件(シモヤマ・ケース)』(新潮社・森達也著)
を読んだことがあるひともいるかもしれない。この二月に出たばかりの本だ。
著者の森達也さんは、テレビディレクター、オウム信者に密着した『A』『A2』(DVDになっているよ)などのドキュメンタリー映画なども撮っている映画監督で、さいきんはとてもいい本をいろいろ書いている。若いころには役者もやっていて、黒沢清監督の映画にも出たことがあるひとだ。
「ライカビル」には、戦後史の影の存在として有名なキャノン機関の、キャノン中佐の部屋があった。それから、「亜細亜産業」っていう会社もおなじビルにはいっていたんだけど、この会社が、下山事件にふかくかかわっていたという。その会社にじぶんの身内がいたことがあって、あの事件にかかわっていたらしい、という人物が、森さんのまえにあらわれるところから、この本ははじまる。紹介したのはあの井筒監督なんだけど。
下山事件は一九四九年におきている。下山定則国鉄総裁が轢死体となって発見され、自殺他殺、他殺ならやったのはどこだ、の諸説が乱れ飛んだ事件。
この本の帯に
「関係者はどんどん鬼籍に入る。取材はタイム・レースだ。」
とあるけれど、森さんが取材にとりかかった時期は、すこしでも事件を語らせることができるだけの時のながさと、関係者がいなくなってしまう時期の、なんとも絶妙なころあいだったのかもしれない。森さんは、とにかく関係者に接触をしていくのだけど、ふつうのノンフィクションではあじわえない、その取材対象との人間関係なんかも、とても読みごたえがあるんだ。
それから、斎藤茂男さんのような、この事件をずっと追いつづけてきたジャーナリストとの出会いと、協力、そして…。
森さんがとりかかる題材のばあい、いつも、発表媒体すら揺れうごく。取材のなかで、森さん自身も、揺れうごく。そして、読んでいるぼくも。
森さんの本はほとんど読んでいるけど
『放送禁止歌』(光文社・知恵の森文庫)
『ベトナムから来たもう一人のラストエンペラー』(角川書店)
なども、とてもおすすめ。
きょう読んだのは
『足が未来をつくる 〈視覚の帝国〉から〈足の文化〉へ』(洋泉社新書/海野弘著)
買った本は
『古本屋五十年』(ちくま文庫/青木正美著)