どうも視線がツメタい、と思ったら義理チョコ連へのお返しを忘れていたらしい。そんなこと言われてもなぁ、ホワイトデーがいつか知らない、たしか三月の一二~一六日のうちのいつかだろう、っていうような人間だ。辞書を引いて一四日だったとたったいま知ったんだもの。しゃあないので、帰りに湯島聖堂ちかくの「
美篶堂」で小物を買う。
神保町の「三省堂書店」で新刊の
『リッスン ジャズとロックと青春の日々』(講談社文庫/中山康樹著)
を購入。『スイングジャーナル青春録』「大阪編」、「東京編」を再編集して一冊にまとめたもの。改題せんでも良かったような…。
スティックシュガーをしばらく切らしていたので、近所のスーパーで角砂糖を買う。
〈「いいものあげるから降りて来なさいったら」
野村孝子は階段の下にいた。
孝子は桃色のハンカチを拡げた。角砂糖が五つ六つ、白く輝いた。
「なんだい、つまらないな」
「社長用の、盗んできちゃった。これ舶来ものよ。わたし大好きなの、このピリッと角の立った角砂糖。ぽとん、ぽとんて、紅茶の中に入れるでしょう。だんだんに紅茶の色がしみていって、小さなあぶくがぽつんぽつんて出るの、そしてお匙でそっとかきまわすの。すると、こんなにけがれのない、こんなに張りつめた形をしているのに、まるで嘘のようにもろく崩れてなくなってしまうの。紅茶がおいしいのは、こんなに美しい形のものを溶かしこんでいるからなんだわ。だから、紅茶は絶対に角砂糖でなければだめなんだわ」〉 (小関智弘『粋な旋盤工』岩波現代文庫「角砂糖の効用」)
せっかく買ってきた角砂糖だけど、ウチにはあいにく紅茶がなかった。ひとつ、珈琲に落とす。やっぱり、紅茶じゃないとなぁ。それに、珈琲はブラックの方がうまいや。どうしよう、この角砂糖……
安いティーバックでいいから紅茶を買ってくるか。紅茶向きのカップなんてないのだけど。飲み物に落とすだけが使い道ではないようだが。