さてと、きょう(一日)のお供本は
『街に顔があった頃 浅草・銀座・新宿』(新潮文庫/吉行淳之介・開高健著)
だったのだけど。いやぁ、朝から電車のなかで読む本ではないね、これは。
『美酒について』の続編的な対談本なのだけれど、話の内容はワイダンなのであります。
そういう話が極端にキライなひとは、ここから下は読まないでネッ。
開高さんがまだ某アルコールメーカー(あー、みなさまご存知でしょうが、某社の名誉のため、名はいちおう伏せておきましょう)の宣伝部時代。出入り業者がアレヤコレヤと特別な接待にかかるのだが……。
〈開高 それから字を書くのもありますナ。あそこに墨汁をひたした筆をはさんで……。
吉行 馬という字を逆さに書く……。
開高 私が浅草で見たのでは、続け字で「江戸一代女」。「寿」というのもあった。
吉行 それは新字体でしょうね(笑)。
開高 もちろん略字で「寿」ですが、最後の点は打ってあった(笑)。
古畳に半紙をのせて、四隅をピンで止めて、その上へ女が跨って墨痕淋漓、何枚も書く。で、その一枚を千円でもらってきました。
吉行 もらったのにはワケがありそうだな。
開高 そう。翌日、重役の一人に見せる。「これは、篠田桃江さんではないさる女流の名筆で、莫大なるゼニを払って戴いてきましたが、ここまま新年の全紙広告に使おうと思います」なんて言ったわけよ。「男の強い手首で書いたみたいで、達筆でしょう」とか念を押してね。すると重役も「女にしてはなかなかすごいなあ」なんて感心するんだワ。
吉行 たしかに名筆には違いないものね。
開高 それからが大変。黒地に白抜きしてみたり、白地に墨のせにしてみたり、アミをかけたり、朝・毎・読、一紙ごとに変えましてね、全紙広告に仕上げてしまった。全紙いっぱいにたった一字「寿」とおき、ワキに、
「まためぐりくる
王城の春に捧げる
この無声歓呼」
などと書いてね。これが元旦、全部に出たわけです。こっちは宿酔、寝床のなかでよれよれの目で確かめ、ウフフフと陰気な笑い……。こういうダダイズム的反撃をやった。サラリーマンのはかない抵抗ですわ。
吉行 オールドについている字もそれじゃないのか?
開高 あれは違います。あれは私がやめてから売り出してますから。しかし、あの民俗芸術家たち、みんな一所懸命でした。〉
ウソかホントか知らないが、いやはや……。吉行さんのさいごの返しがきいてますナ。
さてさて、さきほどまでは
『植草甚一スタイル』(平凡社/コロナ・ブックス編集部編)
を読んだり、眺めたり、またページを戻って読んだり、眺めたり。なんとも愉しい。
〈本書は平凡社刊『太陽』の一九九五年六月号特集「植草甚一」をもとに、加筆・再構成したものです。〉だそうだ。
『やぶにらみの時計』(中公文庫/都筑道夫著)
を、眠くなるまで読んだら、寝るつもり。