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「ニューヨーク・タイムズ」と、日本の新聞。

 ぼくの、「ニューヨーク・タイムズ」のイメージは、ニューヨークの高級紙で、記事の質が高い(らしい)、どちらかというとリベラルなスタンスをとる(らしい)、影響力のおおきい新聞(らしい)、くらいなもの。なにせ、読んだことがないのだから。
 
 『ニューヨーク・タイムズ物語 紙面にみる多様性とバランス感覚』(中公新書/三輪裕範著)
を読んだ(再読)。その歴史と、副題にある「紙面にみる多様性とバランス感覚」を、日本の新聞との比較もまじえつつ、ていねいに紹介している。
 一九九九年に出ている本だから、いまではだいぶ変化したところもあるだろうが、とても参考になるよ。

 第一章「大きく変化するニューヨーク・タイムズ」では、九〇年代後半の、紙面のカラー化やセクション増加などの紙面改革について述べている。
 記事の増加によって、質が低下することはゆるされない。経営改善の必要がでてきた七〇年代後半、同紙は、セクション増や記事の質を高める積極策で、その危機をのりこえた。しかも、〈「アスパラガスについての記事を書くのであれば、パリからのレポート記事と同じように高い水準」〉が要求されたという。

 そういった、質の高い記事(読んだことないけどさ)を売り物にした「ニューヨーク・タイムズ」の特徴のなかでも、〈(一)報道のバランスと多様性、(二)国際報道の充実〉がもっとも重要であるというのが、著者の考えだ。それぞれ、第二章、第三章で論じられている。
 
 バランスと多様性ということでいえば、きわめて影響力がおおきい「オプ・エド欄」(論説コラム欄)の、同紙がかかえる有名コラムニストたちのコラムを比較し論じているところがたいへん興味ふかい。引用は豊富で具体的だ。また、日本の新聞同士の記事の比較などもされており、納得させられる指摘もおおかった。
 
 第四章は「ニューヨーク・タイムズとユダヤ性」。
 歴代経営者がユダヤ人であったことから、その中立性が疑われる、として、ある時期まで、反シオニズム路線をしき、ユダヤ人記者は採用も制限され、署名記事も書けなかった。
 しかも、アラブ・イスラエル関連の記事にいたっては、その量を計り、分量がおなじになるよう、調整していたという。あるユダヤ人記者は、同社のその雰囲気を、「ユダヤ狂い」と表現している。
 ただし、一九六七年の「六日間戦争」のあたりから、反シオニズム路線も撤回するなど、そういった雰囲気は変化、編集幹部にユダヤ人記者が起用されるようになっていったようだ。

 「ニューヨーク・タイムズ」がすばらしい新聞なのかどうか、ぼくにはわからないけれど(アメリカのジャーナリズム全般の問題点について、いろいろな報道も目にするし)、この本が、日本の新聞というものをかんがえる上で、たいへんに参考になる一冊であることはたしかだ。 
by taikutuotoko | 2004-10-07 01:19 | 本・雑誌・新聞・書店


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