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装幀の冒険。

 『装幀=菊地信義 〈本の肖像書物のドラマ〉』(フィルムアート社/菊地信義・フィルムアート社編著)
を読んだ。細部まで、菊地さんが手がけた、たいへんに凝ったつくりの本だ。一九八六年刊。

 帯に書いてあるものを引き写してみると、この本の特徴が伝わるとおもう。
 
 「双方から読み進む刺激的な本の冒険」
 
 えっ、双方から?そう、この本、右開き(縦組み)と左開き(横組み)のページがいっしょになっているのだ。それも、飛び飛びで、しかも、紙もちがう。ノンブル(ページ数)も、たとえば「R-49」のとなりが「L-63」だったりするわけ。

 もういちど、帯にもどろう。
 左開きの方の帯には 
 「装幀のプロセスを同時ドキュメントとして、生成する書物のドラマを発見する!」
 そして右には
 「“本の演出家”菊地信義と24のテキストが、来るべき本の肖像を探る!」
とある。

 左開きの方は、菊地さんが編集者と語りながら、この本をつくりあげていく、そのドキュメントのような内容。そして菊地さんにとって装幀とはどういうことか、という、かなり深いところを述べていく。そのなかに、ときどき、古井由吉さんの「モノローグ」がはさみこまれている、というかたち。

 右開きの方では、菊地さんとかかわりのある作家・詩人・編集者・書店員といったひとたちの、菊地さんのしごとについて書いたものが読めるようになっている。吉岡実・横尾忠則・山田太一・司修・谷川俊太郎・田口久美子・澁澤龍彦・寺田博……総勢二四名だ。

 いぜんに、平野甲賀さんや和田誠さんの、自身の装幀についての本を紹介した。平野さんや和田さんの装幀のばあい、見れば、たいてい、だれの手によるものかわるという特徴的なものだ。それとくらべると、菊地さんのは、そうではない。それでいて、「菊地信義」である、という不思議なものだ。

 書店員である田口久美子さんは、ある本をさがしだそうとするとき、本が、というよりも装幀が声を出して呼んでくれるという。とくに菊地さんのばあいは。
 「題字の字体に装幀家独特のクセがあるわけでなく、決まりきった色があるわけでもないのに。また著者名がローマ字でふりがなのようにつけてあるというパターンも、思い起こすときには忘れられているのに。彼は他の名だたる装幀家のように、自分に合わせた表現方法をとらない。なのに、なんだろうこの強い印象は。」
 
 その秘密を、左開きの方で、すこし覗いてみることができる、そういう一冊だ。 
by taikutuotoko | 2004-09-20 14:33 | 本・雑誌・新聞・書店


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