小林信彦さんの、若いころの文章というものは、いまとはまたちがったよさがあって、たまらないものだ。
『地獄の映画館』(集英社文庫/小林信彦著)
を読んだ。一九六一~八一年の、映画に関する文章が収録されている。ざんねんながら、絶版。
『コラムは歌う エンタテインメント評判記1960-63』(ちくま文庫)
にも、この一部が収録されているが、こちらもげんざいは流通してない。が、古本屋で見かけるとしたら、『コラムは歌う』の方がおおいだろうな。(ほかの部分も、もしかしたらべつの本に収録されているかもしれないが、確認していない)
ここでは、第二部「はみだし映画天国」より
「〈ウェスト・サイド〉現象とは?」
というのを御紹介。もちろん、ミュージカル映画の傑作
『ウエスト・サイド物語』(ロバート・ワイズ監督/一九六一年)
にかんするものであります。(ぼくもDVDを所有)
とにかく、この映画が、一般の映画ファンのみならず、小林さんやその友人たちにあたえた影響はおおきい。それが、小林さんのいう「〈ウェスト・サイド〉現象」としてあらわれるのだが、これがケッサク。
たとえば。
*試写会のあと、虫明亜呂無さんとレストランで食事をし、真夜中にそこを出ると
〈コーフン未ださめやらず、六本木から神宮通りの私のアパートまで、闇の中を、「トゥナイト」を合唱しながら歩いた。〉
〈途中、闇の中で接吻している二つの黒い影を見て、二人は異口同音に言った。
「トゥナイト、ですな」〉
*友人の結婚式で酔った永六輔と
〈「ジェット・ソング」をうたいながら、グレン隊のたむろしている新宿の裏通りを歩いていた。〉
*小林さんの「ウエスト・サイド病」が
〈同じ職場の女の子に移ってしまい、彼女は金網のそばに立つと指をパチッと鳴らすようになった。おまけに、ああ、彼女は、私を呼ぶのに、口笛をもってするのである。〉
と、まぁ、こんな調子なのだ。
レストランのなかでの、虫明さんとの会話がまた、おかしくって。
小林さんが、「この映画と『草原の輝き』(のナタリー・ウッド)はいいですねぇ。」うんぬん、というと、虫明さん
「そうですね。ナタリー・ウッドというのは、ふだんはサカリのついたリスみたいですがねぇ」