まだ若きヘミングウェイが、パリでくらしていたころのはなし。
本を買うおかねも、まんぞくにないヘミングウェイに、ある日、「すてきな場所」ができた。それは、「シェイクスピア・アンド・カンパニイ書店」という名の、貸本屋兼書店だった。入会金すらなかったかれに、その店は、後払いでいいと、会員証をつくってくれたのだという。この店のおかげで、かれはたくさんの文学書を読むことができた。
ぼくが、きょう、いっきに読んでしまった
『ヨーロッパ 本と書店の物語』(平凡社新書/小田光雄著)
に、このエピソードがでてくる。
「すてきな場所」。
じっさい、この書店は、おおくの芸術家たちがつどう場所となり、「特異な現代文学史・文化史が形成されていく」ことになる。また、出版のあてのなかった、ジョイスの『ユリシーズ』を出版したのも、この書店だった。その書店が、そして店主のアメリカ人女性シルヴィア・ビーチが、このあと、どのような運命をたどるか、は、読んでほしいので書かない。
紹介したぶぶんは、十二章あるうちの、ひとつの章の一部でしかない。
『ドン・キホーテ』の成立がいみする「活字中毒者の誕生」から、ペーパーバックの誕生による本の大量生産の時代へという変化までを、この本はたどっていくことになる。
「本と書店の物語」は、ときには、いっしゅんの輝きを、ぼくたちにみせてくれる。だが、それが、どれだけ困難であるか。これを読んだひとは、呆然となるかもしれない。
『書店の近代 本が輝いていた時代』(平凡社新書)
は、おなじ著者による、この日本編だ。
さて、書店についての本を読んだ日に、ブックオフで買い物ではもうしわけないが
『風俗学 路上の思考』(ちくま文庫/多田道太郎著)
が、二五〇円で。
『くっすん大黒』(文藝春秋/町田康著)
『屈辱ポンチ』(文藝春秋/町田康著)
『夫婦茶碗』(新潮社/町田康著)
は、いずれも一〇五円棚から、買った。