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愉しい読書を邪魔するもの。

 「この空気と教育の中に、真白なお前の頭脳を突き出さねばならんのか。」

 清沢洌(一八九〇~一九四五)の『非常日本への直言』(一九三三年刊)という本の、「序に代えて わが児に与う」という文書のなかに、この嘆きというか恐れのようなつぶやきがある。ぼくはこの本を読んだのではなくて
 『清沢洌評論集』(岩波文庫/山本義彦編)
のなかに収められているのをまえに読んでいたんだ。
 
 これは、清沢の小さな子どもが、写真に写っている中国人(原文では「支那人」)を指して、「じゃあ、あの人と戦争するんですね」といったことに、というかまだ「晩生まれの七歳」にそのようにいわせてしまう時代の空気に、わが子と日本の現状と将来を憂えた清沢が、教育や愛国心などについて「わが児に与う」かたちでかいたもので、ぼくがしるかぎり、教育についてかかれた文章ではもっともすばらしいものだとおもう。

 なぜ、清沢のこの文章を紹介したのかといえば
 『平和と平等をあきらめない』(晶文社/高橋哲哉・斎藤貴男著)
を読んだからなんだ。このなかで語られているいまの社会のさまざまな「病理」(といっていいとおもう)のなかでも、教育それも石原都知事のもとすすめられる東京の教育改革と教育行政の現状は、子どものいないぼくにとっても、とても恐ろしいものだ。そして、読んでいるうちに、冒頭の清沢の言葉を、ぼくは強烈におもいだしていた。

 清沢はジャーナリスト・評論家で、終戦まじかで亡くなってしまったが、かれは戦後、外交史をかくつもりで、資料とすべく日記をつけていた。その日記はのちに出版され、いまでは
 『暗黒日記(1・2・3)』(ちくま学芸文庫/橋川文三編)
と、一冊だけの抄録版だが
 『暗黒日記 1942-1945』(岩波文庫/山本義彦編)
で読むことができる。当時の新聞記事も掲載されていて、それを読むこともとても勉強になるんだ。『平和~』のなかでも、高橋さんが『暗黒日記』の記述をなんども引用しているしね。

 『平和~』のなかでは、斎藤さんが「ぼくがいちばんいやなのは、戦争とかなんとかいう以前にその目線なんですよ。為政者たちが他人を見下した、あの目線。」といったり、高橋さんが「国民をなめているし、国民はなめられている。そうなると、なめられているほうの問題も大きいですね。」といっていることに、ぼくはとても共感をおぼえる。
 
 ぼくにとって、首相をはじめ政治家たち(に、とどまらないが)の発言をみたりきいたりすることは、とても精神的につかれとどうしようもない怒りをもたらすものであって、できることなら、いっさいを遮断し、すきな読書やたのしい音楽をきいていたくなるが、そんなことをしていてはたいへんなことになるのは必死で、読書にしても愉しさとはべつの読書をしなくちゃならない。ほんとうに腹がたつ。もっと、愉しい本をたくさん読みたいしここでいろいろ紹介したいのに、そうもいかないこともあるのは、ぼくとしては不本意だが、たまにはこういうことも書くことになってしまうのだ。
 
 でも、いま読んでいる小林信彦の本がもうすぐ読み終わるもんね!ほんとうにおもしろい。
by taikutuotoko | 2004-06-19 20:44 | 本・雑誌・新聞・書店


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