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銀座を生きた。

 昭和三〇年代初めの銀座じゃあ、身なりを粋にキメようったってそうはお金をかけられねぇ不良少年たちが、せめて靴みがきはとオノオノ贔屓つくって靴ぅ光らせてた、っていう。

 〈当時の銀座にいた靴みがきのプロのなかで誰がもっとも上手であったかというのは、いまでも往年の不良少年たちが顔を合わせて論じるたびに意見がわかれるテーマだ。
 日比谷のアメリカン・ファーマシーの中でしか靴をみがいたことがないと言う者もいれば、文具の黒沢商店のまえにいたおばさんをあげる者もいるし、白馬車(現在の宝石ミワ)の向かいにいまも坐っていて修理専門に転じた競馬好きなおじさんがいちばんうまかったとして譲らない者もいるのである。〉

 『銀座ラプソディ』(集英社文庫/樋口修吉著)
を読んだ。『話の特集』に連載された小説で、単行本が八七年、文庫が九四年刊。

 著者自身といえる主人公・康介と、康介が出合ったさまざまな人間たち、店、建物、銀座って街の物語。靴みがきの話もそうだが、細部にこだわる。
 
 それこそ、三島由紀夫・伊丹一三(十三)・巨泉にシナトラ……なんていうようなビックネームもつぎつぎと登場するのだけれど。
 この物語では、そんな主役級の大物たちは脇役にまわる。不良少年のなれの果て、遊び人、外人風の妙な愛称をもってるような人間たち、脇役のようでいて、そのじつ街の街らしい雑多な自堕落な粋な面の主役であったものたちの姿を描いている。

 康介は、勤め人生活を酒やギャンブルでしくじって流れていき、そこから物書きへとなっていく、と同様に、出合った仲間たちの人生ものちのちまで記されている。

 東京湾に死体が浮かんだ男。バンドマンからのちに「ヤンヤン 歌うスタジオ」のプロデューサーとなる“ガンボ”と、その兄。康介の銀座の遊びの世界をひろげてくれた大学の先輩は、のちに周防正行監督の義父となるだろう。消息不明になったものも、おおいという。
 
 なんにしろ、彼(女)らは銀座をふかく生きたのだった。(←うーん、うまくマトメらんないんで、無理やり書いたのがわかる一行だなぁ。) 
by taikutuotoko | 2005-06-21 01:06 | 本・雑誌・新聞・書店


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