松島トモ子、ホームレスに会う。

 〈「あら!あなたまだ時計してらっしゃるのね。時間が気になりますか?」
 「ええ、もう通勤時間だな、とか食事時間だな、寝る時間だななんて独り言言ったりしてね……。未練がましくまだシステム手帳持っているんですよ。中身は真っ白ですけど」〉
 答えた男は、四七歳の元・公務員。ホームレス。訊いているのは、アノ松島トモ子さんだ。
 
 『ホームレスさんこんにちは』(めるくまーる/松島トモ子著)
を読んだ。〇四年刊。もしほかのひとが、〈すっかりホームレスにはまっている。〉などと書いたら、いかがなものか、だろう。でも、松島さんは、べつに誰に頼まれた仕事でもなく、「ホームレスさん」に近づいていった。このひとには、その言い方がゆるされていいと思う。

 日比谷公園の“先生”は、知り合いの花屋の奥さんに紹介してもらったホームレスだ。松島さんは、日比谷公園のベンチで、その先生に紹介されたホームレスのひとたちにインタビューを重ねていった。ついには、ニューヨークにまで、ホームレスに話を訊きに行くのだった。

 かわいそう、っていうんで、近づいていったんじゃない。子供の頃から仕事をしていた松島さんは、どこか自由を、ホームレスの生活に見ていたという。ところが、ホームレスから「いちばん大変なことは、ストレス」と聞き、驚く。
 そんなことに驚いててどうすんだい、って、思われるかもしれないけれど、この本で交わされている会話のユニークさや、松島さんの視点のありか、というものは、この一見ちょっとズレているかのような松島さんの感覚によるもので、ちょっと他では読めるもんじゃない。

 松島さんは、そこになにかしらの問題や社会の歪みを見る「ため」に、ホームレスのひとたちに話を訊いた、ということではない。わたしはあなたに関心があるわ、ねぇ、話を聞かせて。そういう意識で、ホームレスに接していく。あなたの話を聞きたい、ということはつまり、あなたの人間としての尊厳を尊重する、ということだ。それが、結果として、社会のありかたを見つめることにつながる。はじめから「問題」を見ようとすると、視界が曇る。  

 「優しさ」という言葉ほど、扱いに困る言葉はないけれど、けれどやっぱり大切な言葉だ。
 〈私は優しさのある社会のほうがいい。〉(「朝日新聞」〇四年七月九日)
という松島さんに、ぼくも同意する。当たり前のようでいて、ほとんど不可能なはなしだけど、ぼくもそっちの方が、いい。(わっ、照れるナァ、こんなの書くと。)
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by taikutuotoko | 2005-03-04 01:02 | 本・雑誌・新聞・書店


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