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千人斬の真実は。

 〈そもそも千人斬は男の場合で、女の場合は千人信心と申す由。男はしょせん数のみ誇るギネスブックのレベルなのに、女が成就したときは、生ける観世音、神仙の域にとどくのだとか。いかにも。女性はただでも神通力があるものねぇ。〉

 『悲願千人斬の女』(筑摩書房/小沢信男著)
を読んだ。表題作のほか、「いろは大王 木村荘平」「日本一の狂人 芦原将軍」「超俗の怪物  稲垣足穂」を収録した〈破天荒人物伝〉だ。ことし八月出たばかり。

 木村荘平、芦原将軍、稲垣足穂の三人は、あるていど本を読むひとにとっては有名人だろう。だけども、読まないでも知ってらい、という御方も、小沢信男が書いている、ということを忘れちゃあイケナイ。たまりませんよ。
 とくに足穂の『ヰタ・マキニカリス』、一九四八年に限定五〇〇部で刊行されて買ったのを、小沢さんはいまだに持っているというんだから。

 しかし、なんといっても、「悲願千人斬の女 松の門三艸子」だろう。

 ところで、松の門三艸子(まつのとみさこ)というのはどういう人物か。なになに、〈明治初期の有名歌人〉で、筑摩書房の『明治文学全集』にも収められている、と。なるほど。で、どこが「千人斬の女」なんだい?
 
 えっ? 
 〈彼女は裕福な町家の娘から、芸者、歌人と転身しつつ、大名から幇間まで四民平等に撫で切って、ついに千人斬を達成したのであるらしい。〉

 へぇー、いやはやオドロイタね。そういうひとがいたなんて。たいへんな美人だったそうで。

 ん?こんな都々逸があるって?
 〈小町にヨウ似た三艸子の笑顔 よんだ歌にも穴がない〉

 ややや、どうしたことでしょう、これは。「千人斬」なのに「穴がない」?んんん。それに、そんな文学全集に載るような歌人が、ほんとにそんなことができたのかどうか。どうです、これは気になる“事件”でしょう。

 中条省平さんがいうところの「小沢名探偵」の推理が冴え渡る。気になる方は本屋へどうぞ。
 
 定価(税込一九九五円)をかんがえると、もうすこしボリュームがほしいところだけどね(二〇五ページ)。何年かしたら、きっと「ちくま文庫」にはいるだろから、それをねらうっていう手もあるけれど。 
by taikutuotoko | 2004-10-21 21:31 | 本・雑誌・新聞・書店


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