10日発売の『本の雑誌』1月号、2010年「私のベスト3」に私も3冊挙げさせていただきました。さいしょに頭に浮かんだ魚雷さんの『活字と自活』や南陀楼さんの『一箱古本市の歩きかた』は自分の名前がちょろっと出てたりするので今回は涙を呑んで別のものをセレクト。古書現世・向井さんと同じ枠で載ってマース。
帰りに池袋のジュンク堂書店。もしかしたら自分にとっての「生涯ベスト」級の新刊が出ている!ということでどきどきしながら棚の前へ。
『F党宣言! 俺たちの北海道日本ハムファイターズ』(えのきどいとろう著/河出書房新社)
あった・・・・・・!
ちょっと、この本に関しては人一倍思い入れがある、と言い切れるとおもう。手元にある2002年の日本ハムファイターズファン会報『Fighters magazine』6号、えのきどさんの連載「東京の屋根の下」は第六話「ホームチーム」。北海道移転、という現実(移転は04年から)を前にした、長年のファイターズファンえのきどいちろうの、いや、すべてのハムファンの切実で複雑な心情がそこにあらわれていた文章だ。〈俺たちファイターズが好きなんだよ。生きていくつっかえ棒なんだよ。だけど身を切るような想いで、東京じゃもうつぶれて無くなっちゃうんだとしたら、札幌でも沖縄でもどこでもいいから生き残って欲しいんだよ。〉
この「ホームチーム」には、その時のファン達のほんとうの気持ちが記されている。でも、本書『F党宣言!』にはこれは載っていない。かわりに読めるものは、03年『読売ウィークリー』に掲載された「ファイターズが東京ドームを去った日」だ。ここには〈東京ファイターズが生きてゆくつっかえ棒だった。〉の一文が見える。「生きてゆくつっかえ棒」。
たしかに「ホームチーム」はいまだぼくの心を打つのだけれど、『F党宣言!』にふさわしい一文とはいえないのだ。どこか一点の心情に立ち止まることはできないし、春になればまたプロ野球は開幕する。東京からファイターズが旅立ったあとにも球春は訪れた。「つっかえ棒」は北海道からもにゅいーっと伸びてぼくらを支えつづけてくれたのであります!旦那!
少々支離メツレツ気味でありますがつづけます。一時期ぼくは大宅壮一文庫にえのきどさんの記事をコピー取りに行っていたことがあった、いや、そう、えのきどさんの日ハム本ができないだろうか、とぼんやり思ったりしていたのだ(そういえば1999年の『PLAYBOY』の記事でプロフィール欄に「現在、大東文化大の篠原章氏と経済学の共著を準備中」とあるけどこれはどうなったのだろう)。まぁそのときはどうともならなかった。ところがのち、編集者のTさんと話をしていて、ぼくがまた「えのきどさんの日ハムの・・・」となにやらまたうなされたように喋ったらしい。編集者という人は頭の中がよく耕された農地のようになっていて、すこしでも生命力のある種が飛んできて土に落ちると、やがて立派な芽を出させることができる(市場向けにしっかり品種改良した上で出荷する!!)のだ。もちろん、たくさんの要素があって本書が生まれることになったのだろうけど、ぼくにとってはこれは「ぼくが読みたかったから出た本」なのだ。というわけで買ってください。ファイターズファンでない方、スワローズでも、リバプールでも、オービックシーガルズでも、ガッタスでも、愛媛マンダリンパイレーツでも、どんなところでもいい、「つっかえ棒」に覚えのある方、読んでください。そしてTさん、また、ぼくが読みたい本をつくってください。Tさんはぼくにとっては誰よりも編集者です。
甲斐よしひろ『九州少年』(ポプラ文庫)も買ったぜぃ!(買い忘れていたえのきどさんの『我輩はゲームである。其ノ弐』もね)