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田中小実昌と「物語」。

 さいきん、これと、『ポロポロ』『自動巻時計の一日』が河出文庫にはいった。エライぞ、河出文庫。

 『香具師の旅』(河出文庫/田中小実昌著)
を読んだ。直木賞受賞作である「浪曲師朝日丸の話」「ミミのこと」と、「香具師の旅」「母娘流れ唄」「鮟鱇の足」「味噌汁に砂糖」を収録している。
 
 小実昌さんのものを読んだことがないひとは、「ミミのこと」から手をつけてみると、はいりやすいかもしれない。(ぎゃくにいうと、小実昌さんの作品としては、異色なのだろう)。やっぱり、さいしょが『アメン父』(講談社文芸文庫)とかだと、ちょっと、とまどうだろうな。

 「解説」(井口時男)で、おなじ一九二五年生まれの、小実昌さんと三島由紀夫を比較している。
 〈一言でいえば、三島由紀夫は小説を作るが、田中小実昌は小説を作らないのだ。〉

 どういうことかというと
 〈田中小実昌もやっぱり作る(語る)のだが、しかし彼には作ってしまう(語ってしまう)ことへの照れやためらいみたいなものがある。いわば彼は、小説がいかにも小説らしくなってしまうのを恥じるのだ。この恥じらいは、小説が小説であること(あるいは逆に、小説が小説でしかないこと)への上質な批評意識を含んでいる。〉
 これは、小実昌さんの作品にふれたことのあるひとだったら、かんたんに納得のいく指摘だろう。

 『ポロポロ』という作品集は、とくにそれを意識させる内容のものだ。たとえば、収録されている「寝台の穴」には、〈物語〉という文字が頻出する。いま数えてみたのだけど、河出文庫版の、一六五~一九一ページのあいだに、じつに六八回つかわれている。
 
 〈ぼくはつかったことがない言葉だが、なにかの契機で、自分はガラッと変った、と言う人がいる。しかし、ぼく自身は、そんな人は見たことがない。だから、本人が、自分はガラッと変った、と言っているのに、おこがましいことだけれど、ぼくは、その人が言うことが信じられない。〉
というのは、つまり、それは〈物語〉だ、ということなのだろう。

 そのほか
 『ロック スーパースターの軌跡』(講談社現代新書/北中正和著)
も、読んだ。 
by taikutuotoko | 2004-10-10 00:27 | 本・雑誌・新聞・書店


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