和田さんのイラストがつかわれている本だと、まず愉しい内容だとわかるから、気持ちよく読めるんだよなぁ。
『似顔絵物語』(白水社/和田誠著)
を読んだ。一九九八年刊。
『装丁物語』(白水社/和田誠著)
をいぜん紹介したことがあるけれど、こんどは、似顔絵だ。
小学生のとき、ある先生に紹介された清水昆さんの政治漫画がきっかけで、和田さんは漫画・似顔絵に興味をもちはじめる。はじめは、清水さんの描く吉田茂や片山哲の模写だったそうだ。それが、友人、教師たちの似顔絵となっていき、多摩美にはいって、映画俳優、ジャズメンを描きはじめるようになる。どんどん「和田誠」になっていく。そういうながれがおもしろい。
和田さんが、レミさんの父・平野威馬雄さん(このひとも妙なひとだよねぇ)のもとに、結婚を申し込みにいったときのエピソード。
「君はイラストレーターだそうだけど、イラストレーションたあ一体何だい」
という威馬雄さんに、しどろもどろになって説明する和田さん。
すると
〈親父さんは色紙を二枚と硯と墨を出して、「じゃあこれにぼくたちを描きなさい」と言うんです。ぼくたちというのは平野夫妻のことです。色紙を用意してあるところを見ると、ぼくのやっていることもだいたい知っているみたいだし、イラストレーションのことだって知っていたんじゃないか〉
初対面だった和田さんは、慌てながらなんとか仕上げたが、混血だから特徴的な威馬雄さんの顔は描きやすかったそうだ。
よく比較されるひととして、山藤章二さんのことが出てくる。このヘンはとても興味ふかい部分だ。丸谷才一さんのエッセイで、このふたりの似顔絵を論じているものがあるという。和田さんによると
〈丸谷さんの分析は、山藤章二は対象を老化させる、一方和田の方は対象を若返らせる、というもの〉
〈似顔絵というのはタイム・マシーンみたいな方法による芸術で、和田マシーンは過去へさかのぼり、山藤マシーンは将来へ向かう特性を持っている、と論じている〉
のだそうだ。ほんとうなら、丸谷さんの著作に直にあたりたいところだが、もってないから、かんべん。
ぼくは持っていないのだけど
『似顔絵 カラー版』(岩波新書/山藤章二著)
という、岩波新書にしては高い(税込み九八七円)の本がある。
それから、これは持っているもので
『山藤章二の顔事典』(朝日文庫/山藤章二著)
は、朝日新聞に載った山藤さんの似顔絵を事典のようにしたもの。かんたんな、その人物のデータも載っているから、ちょっとむかしの政治家などが登場する本なんかを読むさいに、横に置いておくと便利なんだよね。
(今回のタイトルについてだが、べつに、おふたりの似顔絵が正反対だ、といういみではないよ。)